ホラー短編集
そういやチャリに乗るのは久しぶりだ。学生の時は毎日通学で乗っていたが、卒業してからは専ら原チャで移動するようになった。
最近はエコだなんだでチャリが見直されているが、なるほど確かに排気ガスも出なければガソリン代の節約にもなる。
「……あと……っ運動不足……解消……っ!」
卒業して以来、原チャで楽をしていてすっかり忘れてたが俺の家は高台にあって、坂道が多いのだ。必死に立ち漕ぎをしてなんとか最初の坂を登り切る。
「……はッ……は……ぁッ」
平坦な道をゆっくり走り、息を整えながら向かうべき場所に目を向ける。
最大の難関、“心臓破りの坂”。それを抜ければ安息の地が待っている。が、さて、どうするか。
体力的に自信がなければチャリを押して登ればいい。しかし、この坂は近所では別名“根性坂”とも呼ばれていて、一度も足を付く事なく登り切らなければ『根性なしのヘタレ野郎』とレッテルを貼られる。逆もまた然りだ。
よって、チャリを押して登ることは俺のプライドが許さない。しかし、いまの時間は滅多に人など通らない。
押して登ったところで誰も見ていないし、笑われることもない。
明日もバイトが入ってる――早く帰りたい所だが、ここで無理をして明日に響かせるわけにいかない。
押して登るか――根性坂の手前でブレーキを掛けようと両方の指を曲げた瞬間、自転車ごと前に突き押される衝撃を感じた。