自惚れ男子の取説書【完】

丸太の取っ手を引き厚い木目の扉をあけると、カランとレトロなベルの音が響いた。


「いらっしゃいませ。お待ちしてましたよ」

小田さんと私の姿をみると、優しい顔を更にふんわりとほころばせあの日のおばさんが出迎えてくれた。


「はい、こちらのテーブル用意したのよ。どうぞ」

おばさんの案内でこの間とは違う少し奥まったテーブルへと案内された。パーテーションで仕切られ、手入れの行き届いた観葉植物に小さなキャンドルの灯りが温かい雰囲気だ。

〝RESERVED”の札を除けると、おばさんが私のために少し椅子を引いてくれる。その札を見て「しまった」と思うと同時、小田さんに視線をやると軽く顔を傾け目くばせされる。


小田さん、ちゃんと予約してくれてたんだ。

こじんまりとした雰囲気に侮っていたけど、ここは間違いなく人気店のようだ。金曜日ということもあり、店内は家族連れやカップルでにぎやかだ。


「小田さん、ありがとうございます」

「あ?当然だろ。食いっぱぐれるなんてごめんだからな」

メニューに目を落としながら、悪態の似合わない優しい顔で話す小田さん。なんだかんだ言って優しんだよね。

こっそり盗み見ながら、にやつくのがばれないようメニューで顔を隠した。

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