自惚れ男子の取説書【完】
すっかり忘れていた過去にトリップし、グラスを握ったままぼんやりと料理を眺めていた。
「何だよ。”仕事と私どっちが大事”とか、バカな事言う奴だったかお前?」
途端に無口になった私に、皮肉めいた笑いを送る小田さん。きっとそう言った過去があると思ったんだろう。
「違います。そんなバカな事言いませんよ。ちょっと…浸ってただけです」
むうっとむくれた顔で睨み付けると、小田さんはすらりと長い手で頬杖をつき軽く首をかしげてみせた。
「なに、お前に浸る過去があったわけ?」
意地悪そうに笑う小田さんは、なにかしら確かめるような物言いだ。