自惚れ男子の取説書【完】

娘さんが現れたのは、薬で善次郎さんが眠るようになって3日目。その翌日、善次郎さんは旅立った。


「もっと私から善次郎さんに話すべきだったんです。ちゃんと、娘さんと話した方が…って」

「違うのよ、あの人…わかってた。あなたの気持ちも…娘の居場所も」


まさかの告白に一瞬頭が真っ白になる。

「でも、親が娘の将来の足枷になっちゃだめでしょ?せっかく海外で仕事うまくいってるのに邪魔するなって、あの人言ってたの」

善次郎さんの口振りを思い出してか、奥さんはふふっと微笑んだ。


泣いちゃだめ。

他の患者さんに不安を与えるわけにはいかない。ぐっと唇を噛みこらえる。


「主人も辻さんに感謝してたの。これで…良かったのよ」


そう言う奥さんの顔と、亡くなった善次郎さんの表情はあまりに穏やかだった。

< 16 / 362 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop