自惚れ男子の取説書【完】
娘さんが現れたのは、薬で善次郎さんが眠るようになって3日目。その翌日、善次郎さんは旅立った。
「もっと私から善次郎さんに話すべきだったんです。ちゃんと、娘さんと話した方が…って」
「違うのよ、あの人…わかってた。あなたの気持ちも…娘の居場所も」
まさかの告白に一瞬頭が真っ白になる。
「でも、親が娘の将来の足枷になっちゃだめでしょ?せっかく海外で仕事うまくいってるのに邪魔するなって、あの人言ってたの」
善次郎さんの口振りを思い出してか、奥さんはふふっと微笑んだ。
泣いちゃだめ。
他の患者さんに不安を与えるわけにはいかない。ぐっと唇を噛みこらえる。
「主人も辻さんに感謝してたの。これで…良かったのよ」
そう言う奥さんの顔と、亡くなった善次郎さんの表情はあまりに穏やかだった。