自惚れ男子の取説書【完】


お通しの枝豆をちびちびつまみながら、美沙はオヤジよろしくビールがすすむ。

「琴美、善次郎さんと仲良かったもんね。長い付き合いだったし」

「いつまでも引きずっちゃいけないとは思うんだけど…ね」

患者さんとの別れは何も初めてじゃない。
それでも悲しい別れは深く心に沈みこみ、善次郎さんを見送った後の私は散々だった。

他のスタッフに手伝ってもらいながらどうにか夜勤を終えた後も、全く進まない「死亡退院サマリー」。どうにか書き終える頃には、お昼近くになっていた。


「私、あの2人好きだったなぁ。あんな夫婦憧れる」

「何でも通じあえてるようだったの2人。2人が話すのを聞いてるとほんと楽しそうでさ」


晴れない気持ちを散らすよう、いたずらにグラスのストローをかき混ぜる。
優しい奥さんはあぁ言ってくれたけど、後悔が残る私はしばらく引きずってしまいそうだ。

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