自惚れ男子の取説書【完】
”主人も辻さんに感謝してたの。これで…良かったのよ”
真っ赤な目から大粒のしずくを溢さないよう必死でこらえながら、どうにか笑おうとするしわくちゃの顔。
ご機嫌な天気なんてお構い無し。陰鬱とした気分は自然と足をとめた。
「そんな訳、ないじゃない」
良かった訳がない。
納得できないもやもやと、自分への悔しさからぐっと下唇を噛み締める。口にでた言葉が反芻して、自分への怒りを助長した。
鬱憤をはらすよう、思わず目についたコンクリートの車輪止めを踏みつけるように蹴る。と、通勤用のローヒールパンプスは見事にポキッとその短いヒールをへし折られてしまった。
あぁ、今日はとことんダメな日だ。
へなりとブロックに思わず腰をおろすと、自分の膝を抱え込んだ。
いつもなら笑って話のネタにも出来そうな些細なこと。それすら受け止めるだけの余力すら残っていなかった。
再び閉じた瞼の裏、同じシーンを繰り返しながら私は意識を飛ばした。