自惚れ男子の取説書【完】
ピンとしていた背中がゆっくりと力なく傾きそうになり、とっさにその女性へ駆け寄っていた。
「大丈夫ですか?」
内心の焦りを隠すよう、その人を驚かさないよう出来るだけ優しく声をかけた。
「あら…すみません。大丈夫です」
ふふっと微笑み返した女性に思わず目を奪われた。
白髪混じりの頭に年齢は感じるものの、優しく微笑むその顔は美しさの上に老いを重ねたような。多分、50歳台…か、自分の親位の世代だと思う。若い頃にはモデルや女優でもやってたんじゃないだろうか。とっさに支えた腕の華奢さより、その美しさに惹き付けられてしまった。
「大丈夫ですか?気分が悪くなったとか」
「いえいえ。ごめんなさい、違うの。ぼんやりし過ぎて眠くなっちゃっただけなのよ」
ふふっと茶目っ気のある笑顔を見せた女性は、言葉通り具合が悪い訳ではなさそうだ。盗み見た患者確認用リストバンドは、名前までは見えないものの6階…循環器内科の患者さんであることはわかった。