自惚れ男子の取説書【完】
「第一、辻さんにだっていい人位いるわよ。ねぇ、辻さん?」
「は、はぁ…まぁそれは特に」
こんなとき上手くかわせない自分を恨む。分かりやすく言いよどんだ私に、待ってました!と得意げに松山さんは口を開いた。
「お前なぁ、辻さんのこの頭見てみろ。あんな長いのにバッサリ切っちまって。あれだ、失恋したにきまってるだろ!」
「お父さんっ!何バカな事言ってるんですか、もう。ごめんなさいね辻さん」
すみません、そんなバカな事をやってしまいました…とも言えず。私は張り付けた笑顔でお茶を濁すしかなかった。
「まぁあれだ。これからはこいつも面会来るからさ。たまには話してやってよ」
「あ、はい。こちらこそ、何かあればいつでも声かけて下さいね」
どうにか看護師らしい言葉でまとめると、相変わらず顔を赤くした息子さんとは目を合わせないようそそくさとその場から逃げだした。