自惚れ男子の取説書【完】

 3


外来棟と入院棟は全くの別物だ。

立ち並ぶ長椅子、検査案内のための電子案内板、大きめの観葉植物…入院棟とは違うおもてなしの雰囲気だ。
それに加え土曜の昼間は、窓口にはシャッターが降り静けさを増している。休みの日に小学校にこっそり忍び込んだ時みたい、ちょっと特別な雰囲気に少しわくわくしてしまう。


仕事中、外来棟に来ることは少ない。外来と掛け持ちの病棟では毎日誰かしら来なければならないらしい。だけど私の病棟は外来とは完全分離しているから、病棟配属の私がこうして外来に居る事は珍しいのだ。

だからかもしれない。いつもと違う静けさにほんの少しの解放感。さっさと病棟に戻ればよかったのに。


「お前…ほんと、何なの?」

深く眉間に皺を寄せ、冷たい視線を浴びせるこの人。
久しぶりに聞いたテノールは、ひどく不機嫌で感情を圧し殺したような声だった。

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