自惚れ男子の取説書【完】
足りなくなった酸素を必死に補うよう、互いの荒い息遣いだけが響く。
「……んで?…こん…な」
「言ったろ。俺がお前を助ける訳ないって。ムカついたから…それだけだ」
掠れた声でようやく出た抗議にも、何とも呆気ない答えしか返してはくれない。
自分の肩を抱き、その場に力なくしゃがみこむ。小田さんは転がっていたカバンを掴むと、少し乱れた服を整え足元の私をただ見下ろした。
「これで分かったか?安心しろ、もう…二度と会う事も無い」
人気のない玄関ホール。淡々と響く革靴の音は何の動揺も感じられない。
しゃがみこむ私に優しい言葉をかける人はなく、唯一それを知る人はあっさり私を置き去りにしていってしまった。
無意識に顔を拭った袖は思った以上に湿ってしまった。込み上げる嗚咽を誤魔化すように、思い切り袖口で唇を擦りあげる。無意識に食い縛った唇からは鉄の味がした。