自惚れ男子の取説書【完】
「あら、あなた…」
足音の主に呼ばれた気がして何気なく振り返る。
「やっぱり。お久しぶりです…ってわかるかしら?」
「あっ…お久しぶりです!」
話し掛けてきたのは、前に小田さんといったイタリアンレストランの店員のおばさんだった。
エプロンを外し一瞬分からなかったけど、その人懐っこい笑顔はあの日と変わらない。
「来てくれたのは…1ヶ月前位かしら?お元気でしたか?」
「そうですね。すみません、なかなか行けなくて。それよりよく私だってわかりましたね?」
美沙ほど美人でもなければ通い詰めた常連でもない。おばさんの記憶力に思わず感心してしまう。
「ふふっ、そりゃああの小田さんと来てくれたんじゃね。忘れっこないわ」
ふふっといたずらっ子みたく目配せすると、どうやら連れの存在に気付いたようで美沙に軽く会釈した。