自惚れ男子の取説書【完】
美沙は美沙で会釈すると、『小田さん』という単語に敏感に気付いたらしくそっと私達から距離をとった。
「ここの靴屋さん昔から通っててね。今は娘さんが代替えで、靴のデザインとかやってるんですけど」
「えっ!じゃあこの靴、その方が全部…?」
「全部やってたんじゃ物凄く高くなっちゃうでしょう?そこはある程度外注してるみたい。修理やお手入れまできちんとしてくれるから、長年ずっと通ってるんですよ」
「ねっ!」と声をかけられた店員の女性は肯定するよう静かに微笑み、私と言えば感心しきってロボットみたくカクカクとひたすら頷いた。
どうりでここの靴はどこでも見たことないし、温かみのかるデザインな訳だ。
「まるで私が店員みたいでしょう?ここの人達、ほんと儲ける事に執着しないんだから。お節介したくなるのよ」
「ふふっ。でもこんなすてきなお店、なくなっちゃったら困ります。私も今日初めて入ったんです」