自惚れ男子の取説書【完】
「海外に行くそうよ」
その一瞬、すべての音が私の耳から消え失せた。
カラフルな靴たちからも色は消え、私に向かって話しかけるおばさんの顔もスローモーションで何を言おうとしているのか分からない。
海外……小田さん、が?
指先がなんだか冷たい。心が凍てつくのと同調するように、身体の全ての感覚が奪われていく。
「……みっ!ちょっと、琴美!」
気が付くと美沙に肩を揺さぶられ、心配そうに顔をのぞかれていた。
「大丈夫?ちゃんと聞こえてた?」
「……え、なに?」
重いため息をつくと、思考の追い付かない私の代わりにすみません…とおばさんに謝ってくれていた。