自惚れ男子の取説書【完】
それでもまだ私の耳は音を拾いきれず、辛うじて聞こえたのは「大丈夫ね」という何だかわからないおばさんの自信を持った声だった。
ギィッと扉が軋む音が聞こえ、いつの間にか1つ人の気配が消えていた。
こうして小田さんも消えてしまうの…?
なんで…いつ……そんなの知らない。
石川くんだってそんなこと言わなかったのに。
いや、私に言う必要なんてないってこと、か。
次々浮かぶ疑問と絶望に頭が全くついていけない。
途端、ぐいっと手を引かれるまま身体を預けると美沙に店の外まで連れ出されていた。
外はまだ明るいはずなのに、私の目の前は真っ暗。身体の中をゆっくりと錘が沈んでいくような、息がつまる感覚。
なんで私…こんなに胸が苦しいんだろう。
もう……終わったはず、なのに。
「ちょっと…琴美?大丈夫?」
ポンポンっと、美沙が優しく肩を叩く。