自惚れ男子の取説書【完】


「私…ね。きっと…大丈夫になると思ってたの」


あぁ、そっか。そうなんだ。

どう探してもきれいな離れ方なんて見つからない。

彼の口から”さよなら”を言われるのが怖くて、自分から離れていくしかなかった。

だから…逃げたんだ、私。


「もう無かった事にしちゃえばいいと思ったの。ちゃんと話せる自信、も…なかったし、どう聞けばいいのかもね、分かんなかった」

「……うん」



全て無かった事にして。全て忘れて。

眩しい記憶に蓋をして、記憶の深い深い底へ沈ませておけばいい。

小田さんに拾われたあの日。
悪態をつきながら、結局いつも守ってくれる優しい背中を。
すがりたくなるそのすらりと長い腕も。


でも忘れるには思い出が多すぎて

……出来るわけなかった。
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