自惚れ男子の取説書【完】

 4


忙しく動かしていた足をようやく休め、荒く乱れた呼吸を整える。
思いの外体力の限界だったらしい。両膝に手を当てると、それだけで身体が傾きかける。とっさに手を出すと、壁のザラリとした感触がやけに痛く感じた。

やっと…着いた。


久しぶりに見る茶色のマンションは変わらず背が高く、エントランスからは住人らしき親子が出てくるところだった。


まだ……いる、かな。


「土曜なんだから仕事休みでしょ。行け。今よ今!」

そう背中を押してくれた美沙の言葉のまま、気づけばただ夢中で走り始めた。

「その道まっすぐ!」と背中に聞こえた声のとおりひたすら走ると、よく知った道に繋がった。
マンションに着く頃には、汗で髪が首にまとわりつき、カバンを握りしめていた手は痺れている。

ここに来る時はいつも酔いつぶれたり、汗やら涙やらでぼろぼろになってばかりだ。
だけど、そんなことに構っている暇はない。
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