自惚れ男子の取説書【完】
「少しだけ、時間ください」
「なんのために?お前とは赤の他人だ」
間髪入れず釘を刺され、その一言だけで私の視界はぐにゃりと歪みそうになる。
「まっ……て」
かろうじて絞り出した一言と重なるように、キャッキャとはしゃぐ可愛らしい声が外から近づいていた。
ちらりと視線を走らせると、先ほどマンションから出てきた親子が戻ってくるところだった。
小田さんにもそれが見えたらしい。頭上で小さく舌打ちが聞こえると、顎だけ動かし私に中へ入るよう促した。
私、なんて自分勝手なんだろう。
自分のしでかした事が、いつか小田さんの話していた『嫌な女』と重なる。そんな自分に嫌気がさしつつ、それでももう後戻りは出来ない。
小田さんには聞こえないようそっと息を吐くと、怒りで強ばる大きな背中の後へと続いた。