自惚れ男子の取説書【完】
「出会った日には”好きになんてならない”って啖呵切られてよ。仕事バカだし、方向音痴でめんどくせぇし。勝手に勘違いして姿消すような女なんだけど……お前、どう思う?」
「……め、めんどくさい人ですね」
聞けば聞くほど、私って面倒な女だ。
我ながらバカらしくてそれはそれで泣きそう。
半泣きの私を見ると、小田さんは満足そうに口角をあげた。
下から見上げた小田さんは窓からの光で私に影を落とし、その整ったシルエットときらきらと光る髪がきれいで思わず見とれた。
「なに見とれてんだよ」
ふっと笑みを溢すと、小田さんの顔がゆっくりおりてきて。
私の熱を帯びた唇からそれをそっと分けるように、ついばむように優しく吸われた。
うっとりとその感覚に目を瞑る。満ち足りたりた幸福感にまた視界は滲んでいく。
「小田さん……し、つもん。答えてないです」
「ん?」
絶対聞こえてるはずなのに。
私の声なんて聞こえてないみたく、唇の熱を奪うのをやめようとしない。それに合わせて私の熱は更に上がり、あまりの勢いに息をするのがやっとだ。