自惚れ男子の取説書【完】

一方の小田さんは呼吸1つ乱れることなく、口元は満足そうに微笑み飄々とした顔で私を見下ろす。

「はぁっ……んか、ズルい。小田さんっ…」

「当たり前だ。優しくするとでも思ったか」


そう言ってぺろりと私の左耳を味わうと、微かな刺激だけで私の身体は激しく跳ねた。
顔の左右で固定された手は、次々と襲う甘い攻撃に耐えるようぎゅっと握りしめ掌に食い込む爪が痛い。

「……やっ…!答え…っ」

このまま流されるのなんてごめんだ。

抵抗出来ない身体に代わり口先だけで抗う。それも単語らしい単語も言えず、途切れ途切れに意味不明に啼いてるだけにしか聞こえない。


「ったく……わかってねぇなぁ」

霞んだ視界に入った小田さん。
愛しそうに細めた目、いつもより丸く下がった眉。紅潮した首もとが色っぽくて、甘ったるい顔で笑った。

私の耳たぶを軽く食むと



「好きじゃなきなゃ、こんな面倒な女捕まえねぇよ」



そう耳元で呟くと、いよいよ泣き崩れる私をよそにその甘い攻撃は一晩中続いた。


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