自惚れ男子の取説書【完】

相変わらず多忙な毎日にわをかけて、最近は特にひどかった。海外への出張に続き、自宅にも着替えと風呂に帰るだけ。仮眠を取るとすぐに会社へと戻る日々。
だがそんな事は大した問題じゃない。厄介だったのは、こいつとまともに顔を合わせられなかったことだ。

バカな勘違いで振り回されながら、なんでかこいつを諦めきれなかった。それだけじゃなく、そこ数週間会えないだけで苛つくなんて……俺らしくも ない。ただ早く顔を見たいが為だけに合鍵を渡すだなんて、美月にバレたら一生ネタにされ続けるに違いない。


「あいつら絶対これ食べさせろって。まじしつこい」

そう言って紙袋から引菓子を取り出しテーブルへ置く。

「わぁ、いいんですか!」

目を輝かせて喜ぶ姿に思わず口元が緩む。
こんな重いもの本当は持ち帰るのも面倒だったんだが。

聞けば有名な洋菓子店のものらしく、
『ぜーったい琴美ちゃん喜ぶから!騙されたと思って持っていってあげなさいよ』
と熱弁するのに乗ってみて正解だったようだ。たまには美月もあの人もまともな事を言う。

ふむふむ、と1人満足すると早急に堅苦しさから解放されたくなり寝室へと急いだ。

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