君の記憶に僕は。
prologue
君に出会ったのは、いつだったか。
かれこれもう、20年も前の話だ。
「久しぶり、かおる。元気にしてた?」
君って言う人は本当に厄介だった。
掴まえたと思えば、するすると抜け出して
まるで猫みたいだったさ。自覚はないだろうけれど。
「もうあれから20年経つ。早いな。」
君が背中を押してくれたから、僕は今でも絵を描いているよ。
君が、「光がない、風が聞こえない」なんて言うものだから、苦労したんだ。
僕は、37歳になった今でも、君の言う光の香りも、風の形も分からない。
君の世界を理解するには、まだ足りないみたいだ。
「僕は君が本当に大好きだったよ。伝えるの、遅すぎる?」
君がくれた写真は、今でもきちんと壁に飾ってある。
嫁が言うんだ、君に会ってみたかったってね。
やめた方がいいとは言っておいたが、いずれ会いにいくだろう。
君がくれた全てを、僕は今でも大事にしている。
君がいなかったら多分、僕は今ここにいないだろう。
「かおる、また君に逢いたい。」
君の記憶に僕は。
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