フォンダンショコラなふたり
真夜中、11時58分、もうすぐバレンタインデーが終わる。
何とか間に合ったと言いながら、ピンクの大きなリボンが印象的なトートバッグから箱を取り出し僕に渡した。
普段きちんと結い上げる髪はほどかれ、大きく波うち、肩で揺れている。
同じくらいの年ごろの子がするネイルも、霧乃の爪にはなく、けれどネイルが施された爪よりも美しい。
指先まで手入れが行き届いた手には、祖母から厳しく仕込まれた美しい所作がしみ込んでいる。
「はい、今年のバレンタインのチョコレート。里久ちゃん、大好き」
「ありがとう。今年はどんなの?」
「あけて」
ラッピングの紙も箱も、すべて霧乃が選んで包んでくれたものだ。
彼女の心を感じながら、丁寧に包みを開いていく。
箱の中に見えたのは、オレンジの輪切りにチョコレートがコーティングされたもの。
「オランジェットだね」
「さすが里久ちゃん、このお菓子を知ってる男の人って、珍しいのよ」
「ふぅん、男って、誰?」
「だれって……大学の時の同級生とか、あっ、近衛さんもご存じだったわよ」
「副社長は甘党だから、当然知ってるだろうね。
で、大学の頃、オランジェットを男の同級生にもあげたってわけか」
「昔のことよ」
「昔って、ついこの間まで大学生だったじゃないか。どこが昔なんだよ」
ツンと横を向いた顔には、いつもより濃いピンクの頬紅がのせられ、尖った唇にはパールのグロスが光っている。
キスの前は、もっと艶やかに光っていた。
耳元で揺れるダイヤのイヤリングは、去年のホワイトデーに贈ったものだ。
目いっぱいのオシャレをして、霧乃は僕の元にやってきた。
それなのに、意地の悪いセリフを口にして彼女を困らせる僕は、幼い男の子と同じだ。
「いいの、2年もたてば昔なの。あっ、里久ちゃん、やきもち焼いてる」
「そんなんじゃないよ」
「そお?」
丸い目に見つめられ、否定しきれず瞬きをした。
霧乃の瞳にウソをつくのは無理だ。