捧げる愛、抱きしめる愛
ガチャリ、扉が開いた。
この部屋の中に入ってきたのは、黒髪の長身の男だった。
見慣れぬ服を着た男だ。
「目が覚めたのか。いつ目覚めた?呼べばすぐにここに来たんだが」
「……」
驚いた。
急に声を掛けられたからではない。
彼の発した言葉が、全くわからなかったからだ。
ザンドラヴル帝国があるトラート大陸は言語がザンドラス語で統一されている。
トラート大陸以外の三つの大陸もサハ語、ネトー語、北アロウ語で統一されていたはずだ。
どれも話せるから、間違いはない。
しかし、どの言語でもないとは、どういうことだ?
「やっぱり日本語は通じないか…」
「『そなたは他大陸の者か?』」
「……お前、どこの国のモンだ?そんな発音の言語、聞いたことがない」
「『とにかく礼を言う。感謝する。どうもありがとう』」
棒読みに聞こえないといいが。
「お前の容姿だけじゃ、どこの国から来たのかわからねえんだよ。お前の顔の造りはこの世界にない構造してる気がしてな。気になったんだ」
「『しかし、これ以上迷惑はかけられぬ。私はもう何も持たぬ身。ここにはおれまい。何も礼に差し出せるものがない故』」
私は、相手に言いたいことが伝わっていないことだけはなんとなくわかった。
この男は何を申しておるのだ。
これでは埒が明かん。