捧げる愛、抱きしめる愛
我が国ザンドラヴル帝国には、初代国王により受け継がれてきた伝統がある。
『伝統というのは一種の拘束』
全くもってその通りだと思う。
私が女帝だろうがなんだろうが、それを覆すことなどできないのだ。
「王の座につく者は朕の血を継ぐ男のみとす」
これが、初代国王より継がれる王家の縛り。
この言葉を信じず王となった愚かな女は、ことごとく国民から嫌われ、反乱が次々と起き、国は荒れ廃れ、女は追放された。
断頭台送りになった者もいる。
初代国王は歴史上最も偉大なる王として崇められており、王国から帝国となった今でも初代国王に対する国民の信仰心は根深い。
それはなぜか。
初代国王は偉大なる王と謳われるだけあって、その身から放たれる魔法は凄まじく、魔力は膨大であった。
その気になれば国の一つや二つ、滅ぼせたと言っても過言ではないそう。
そんな初代国王であったから、国民に魔法をかけることなど造作もなかった。
あろうことか初代国王は、国民が気付かぬうちに『己の言葉は絶対』という心を植え付けたのだ。
これは王家にだけ伝わる話。
王家に、この話を国民のために広めようとした強者はいなかった。
そんなことをすれば、初代国王に心酔する国民が自分を敵視するとわかっていたからだ。