空と君との間には
――弾いてみましょうか?

万萬は画用紙にさらさらと文字を書き、紗世に見せる。

「え!? 弾けるの?」

万萬は大きく頷き、黒皮のケースを開け、光沢のあるヴァイオリンを手にして立ち上がる。

調弦をする仕草が手慣れている。

「万萬……くん、いいの? 勝手に弾いても」

万萬は調弦を済ませると、さらさらと文字を書き紗世に向ける。

――ここは誰でも自由に弾いていいカフェだから


凛としてヴァイオリンを構える。

紗世は左手のサポーターが気になった。

――「腱鞘炎なんです」と言ってたけど

万萬を下から見上げると座っていた時よりも、顔色が悪いように思う。

静かに奏でられる旋律は、英国、ジョン▪︎ニュートン作詞の讃美歌。

アイルランドか、スコットランドの民謡を掛け合わせて作られた作曲者不詳だが有名な曲だ。
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