空と君との間には
が、19世紀に南部アメリカで作られた曲だとも、黒人霊歌だとも言われ、諸説がある。


厳かな調べの中にも、心まで掬い上げ、抱きかかえられるような優しさに溢れた曲が耳に心地好く響く。


万萬はヴァイオリンを弾きながら時々、顔をしかめる。


紗世は万萬の左手をみつめる。


万萬は小指と薬指を動かす時に、顔をしかめているような気がする。


――痛むんだろうか


紗世は不安になり、自分まで指が痛くなる気がする。


――無理はしないで


何度も声を出しそうになる。


奏でられる旋律が美しく、透明感のあるヴァイオリンの音色が哀しいほど優しく胸に響く。


――「君と空との間には」の主人公「吉行斎」は、きっとこんな風にヴァイオリンを奏でるんだ


紗世はヴァイオリンの調べに聴き入る。


こんなに、心を癒される音色は今まで聴いたことがないなと思う。
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