空と君との間には
渡部が仕方あるまいという顔をしている。


「麻生、結城がゆっくりしてる間に普段慌ただしくて、教われないことを習っておけ」


「養生中にですか?」


「結城には退屈凌ぎになるだろう」


「えーーーっ 仕事の鬼じゃないですか~」


「特製マニュアルでわからないこととか、しっかり聞いておきなさい」

黒田がそっと耳打ちする。


「今までみたいに由樹が動けない分、貴女には頑張ってもらわなきゃならないんだから」

紗世は、黒田が言っている意味を理解し、「あっ」と漏らす。


――そうだった。結城さんは常時、酸素吸入しなきゃならないんだ……


紗世は、結城の家で見た酸素吸入器が思い出されて、結城の大変さを考える。


病院の診察室の前。
紗世の目に、泣き崩れていた詩乃の姿が焼きついている。
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