僕は、先生に恋をした
僕は、先生に恋をした①
ここは都内の某定時制学校
僕はこの定時制学校に通う
高校2年生だ
とは言っても、今年23歳
ここに通うのはみんなそれぞれ理由があって
高校が卒業出来なかった人や
昼間学校に通えない人の集まり
そんな僕も
訳あって高校を卒業出来なかった一人だ
――――――――――
教頭『えー今日から新しくみんなの担任になる
橘はるか先生です』
教頭が教壇に立ち
生徒達に大きな声でそう切り出した
ざわつく教室
教頭『橘先生、どうぞお入りください』
少し緊張した面持ちで
軽く会釈をして教室に入るはるか
教頭の隣に立ち
ゆっくりと顔を上げる
生徒の一人である望月潤平は
机に肘をつきながら
興味がなさそうにチラッと前を見た
その瞬間
はるかに心を奪われる潤平
ー 僕は、先生に恋をした ー
――――――――――
教頭が教室から出た後
はるかに興味津々な生徒たちは
色々と質問を投げかける
歳はいくつ~?などと失礼な質問をして
ふざける生徒もいる
そんな生徒達に
笑いながら質問に答えるはるか
その時
潤平は、はるかが左手の薬指に
結婚指輪をしていることに気付く
なんだ、結婚してるのか…
拍子抜けして
残念そうな潤平
『先生子供はいるんですか~?』
生徒の一人が質問をする
はるか『はい、3歳になる男の子がいます』
笑顔で答えるはるか
『え~!見えなーい!』
『若ーい!』
騒ぐ生徒たちに
照れながら笑うはるか
その笑った顔を見て
さらに釘づけになる潤平
授業中も
はるかに心を奪われたままの潤平は
突然、はるかと目が合い
質問を当てられてあたふたする
授業終了後
教室を出て行くはるか
その後ろ姿を目で追う潤平
そんな潤平に
隣の席のタクミが話しかける
タクミ『潤平~今から洋介ん家で飲むんだけど
お前も来る?』
潤平『あ…?ああうん』
――――――――――
洋介の家
アパートの一室のワンルーム
テーブルの上には
空の缶ビールが並んでいる
酔っぱらってベッドにもたれているタクミ
そして、潤平と洋介の3人が飲んでいる
洋介『潤平、お前ウィスキー飲む?』
潤平『うん、ありがとう』
スルメを口にくわえたまま立ち上がり
台所でグラスに氷を入れる洋介
タクミ『しっかしさ~橘先生ってまじ美人だよな~
31歳には見えないもん
俺、ああいう奥さんが欲しいわ~』
ベッドにもたれながらタクミが言う
酔っぱらった口調でさらに続ける
タクミ『でもさ~結婚して子供もいるのに
定時制で先生なんかやってて
旦那は何も言わないのかね~?
俺だったら奥さんにそこまで働かせたくないな~』
タクミの言葉に
うなずく潤平
洋介『そうそう、噂で聞いたけど
橘先生の旦那さん
貿易関係の仕事してて海外赴任してるらしいよ
で、橘先生は旦那の両親と一緒に住んでるって…
はい、潤平』
洋介がグラスに入った氷を潤平に渡す
潤平『ありがとう』
タクミ『なるほどね~旦那の両親と
ずっと家にいるのが気まずくて
仕事復帰しちゃった感じかな
結婚て大変だな~』
洋介『それはお前の想像だろ』
笑いながら洋介が言う
タクミ『うん、そうだよ!』
自信満々に返事をするタクミに
潤平と洋介が笑う
――――――――――
教室
授業中
生徒たちの机を見回りながら
一人一人に声をかけるはるか
はるかが来た初日は
心が奪われて
勉強どころじゃなかった潤平も
やっと、授業に集中出来るようになったようだ
授業終了後
生徒がはるかに駆け寄り質問をする
それに対し丁寧に対応するはるか
タクミ『潤平、飯食いに行こうぜ!』
潤平『あぁ』
生徒と話しているはるかに向かって
タクミが大きな声で挨拶をする
タクミ『せんせーさよーならー』
タクミの声に驚いた潤平が
はるかに目を向ける
はるかも一瞬びっくりした顔をしたが
すぐに笑顔で二人にこう返した
はるか『さようなら、また明日ね』
その笑顔に目が離せない潤平
そんな潤平を尻目にタクミは教室を出ていく
――――――――――――
中華料理屋
タクミ『潤平、最近女の話し聞かないけど
どうなの?』
ラーメンをすする潤平に向かって
割り箸で潤平を指すタクミ
潤平『俺?うーん…
今は仕事が楽しいからな
最近、親父にやっと
誉められるようになってきたんだ』
嬉しそうに話す潤平
タクミ『お前の親父が彼女じゃないんだからさ
仕事もいいけど、そろそろ彼女作れよ』
洋介も言ってたよ
お前は頭も良いしルックスも申し分ない
モテるんだからもっと遊べよ
お前ならすぐ彼女出来るって』
潤平『なんだよそれ』
――――――――
職員室
教頭と話をしているはるか
教頭『橘先生、たいぶ慣れてきましたか?』
そう言ってお茶をすする教頭
鼻の下の方まで下がった老眼鏡から
はるかを覗きこむ
はるか『はい、みんな良い生徒たちで安心しました』
教頭『最近の若者は昔で言う
ヤンキーみたいな子は少ないですからね…
それを聞いて私も安心しました
ご家庭の方は大丈夫ですか?』
はるか『はい、大丈夫です』
教頭『なら良かった』
教頭は
はるかに何か事情があることを
知っているようだ
――――――――
教室
はるかが出席を取っている
全員の名前を呼び終わり
出席名簿を見てペンを置く
女子生徒の一人
牧田夏美が2日間無断欠席している
気がかりに思うはるか
はるか『牧田さんが休んでいる理由
誰か知ってますか?』
生徒たちは顔を見合わせる
はるかの言葉に
潤平も夏美が休んでいることに気付く
『風邪じゃない?』
『牧田さんの番号知ってる人いたっけ~?』
『知らなーい!』
女子たちがざわつく
牧田夏美はクラスの女子達とあまり交友がなく
なぜ休んでいるのかはもちろん
みんな、彼女の携帯番号すら知らないようだ
はるか『ありがとう
今日自宅に電話してみます』
――――――――――
職員室
はるかが牧田夏美の自宅に電話をする
しかし
何度電話しても繋がらない
そんなはるかに
教頭が声をかける
教頭『牧田、繋がりませんか?』
はるか『はい…使われていない番号みたいで
…住所はここで合ってますよね?』
教頭『そのはずですがね』
はるかが夏美の住所を見ながら
何かを考えている
教頭『橘先生、これ以上はあなたの業務ではありません
もう勤務時間は過ぎていますよ
お母さんの帰りを待っているお子さんの所へ
早く帰ってあげて下さい』
はるか『…でも』
顔を上げ
言葉を返そうとするはるかだったが
教頭の険しい顔を見て何も言えなくなる
しかし
はるかは教頭には黙って
夏美の家に行こうと考えていた
――――――――――
駐輪場で潤平が自転車を出そうとしている
その時
走って校門に向かう
はるかの姿が目に入った
思わず声をかけてしまう潤平
潤平『先生!』
その言葉に振り返るはるか
はるか『望月くん』
自転車を引いて
はるかに駆け寄る潤平
潤平『もしかして、牧田の家に行くの?』
はるか『え?…う、うん』
何でわかるの?
というような表情のはるか
潤平『それ、ちょっと見せて』
はるかは手に持っていた
住所の書いたメモを潤平に差し出す
潤平『ここなら学校から近いし、俺も一緒に行くよ』
潤平の言葉に驚くはるか
はるか『どうもありがとう…でも、いいの?』
潤平『うん、先生一人じゃ心細いでしょ?』
潤平の言葉に
笑顔がこぼれるはるか
はるか『ありがとう』
潤平も笑顔で返す