僕は、先生に恋をした

橘家


玄関の扉の前

緊張している潤平が
咳払いをしてチャイムを押す

ピンポーン

はるか『はい』

潤平『望月です』

ガチャ

扉を開くはるかの後ろから
走ってきた悠人が潤平に飛びつく

悠人『おにーちゃん!いらっしゃい!』

潤平『悠人、こんにちは』
悠人の頭を撫でる潤平

はるかの後ろから義母が顔を出し
潤平に声をかける

義母『先日はお世話になりました
   さ、おあがりください』

潤平『はい、お邪魔します』

会釈をして玄関へ入る潤平
はるかと笑顔を交わす


潤平がリビングに入ると

読んでいた新聞を畳み
メガネを外す義父

義父『望月くん、良く来たね』

潤平『こんにちは、お邪魔します』

テーブルにはたくさんの料理が並んでいる
それを見て驚く潤平

潤平『わー、すごいですね』

その言葉に嬉しそうな顔をする義母

義父『望月くんが来るって
   朝から女性ニ人、張り切って作ってたんだよ』

義母『普段こんな量の料理作ることないんだけど
   今日は張り切っちゃったわ
   お口に合えばいいけど…』

潤平『ありがとうございます』


悠人『僕、にんじん食べれるようになったんだよ!』

自慢げな顔をして
潤平を見上げる悠人

潤平『本当?すごいね悠人』

悠人『うん、あとで見せてあげるね』

悠人の言葉に微笑む潤平

義母『さ、望月くん座って』


潤平『あ、その前に
   お線香あげさせてもらってもいいですか?』

――――――――――

和室


仏壇の前に座り
手を合わせる潤平

そんな潤平に声をかける義母

義母『雅紀が亡くなって、もうすぐ3年になるの

   はるかさんには色々と苦労をかけてしまったわ
   
   父親がいなくて
   悠人にも寂しい思いをさせてしまって…』


潤平『悠人…あれからどうですか?』

義母『うん…悠人、あの日のことを何も言わないのよ
   
   たぶんお友達に、父親の事を
   からかわれたんだと思うんだけどね…

   やっぱり、私たち祖父母がいても
   父親の代わりにはなれないのね』


寂しそうな義母の言葉に

雅紀の遺影を見つめる潤平

――――――――――

食卓を囲む5人


潤平『この煮物すごく美味しいですね』

潤平の言葉に満足そうな義母

はるか『それ、お義母さんが作ったの』

義母『お口に合って良かったわ』

潤平『俺、父親と二人だから
   おふくろの味とかなかなか食べれないんで
   すごい嬉しいです』

義母『あら、こんな料理で良ければ
   いつでも食べにいらっしゃい』


義母の言葉に驚き
お茶を飲んでいた義父が咳き込む

目を合わせるはるかと潤平


潤平『ありがとうございます』

潤平が笑いながらお礼を言う

――――――――

夕方


玄関で靴を履く潤平とはるか


潤平が義父と義母にあいさつをする

潤平『今日はご馳走さまでした』

義母『またいらしてね』

潤平『はい、ありがとうございます』


悠人『おにーちゃん帰っちゃうの?
   次いつ来るの?』

義父の足元でふくれ面の悠人

義父『悠人、わがままを言っちゃいかん』

義父の言葉に笑いながら
悠人の頭を撫でる潤平


潤平『またいつでも会えるよ、また遊ぼうな』

悠人『うん!』


はるか『じゃあ私、駅まで送ってきます』

義父『じゃあ悠人、お兄ちゃんにバイバイして』

悠人『バ イバーイ』

潤平『あはは…バイバイ』

悠人に手を振り
義父と義母にお辞儀をして家を出る

――――――――――

駅までの道を歩く、はるかと潤平

クリスマスのイルミネーションが
二人を照らすようにキラキラと輝いている

はるか『もうすっかりクリスマスだね』

潤平『先生、ちょっと寄り道しません?』

はるか『え?』

潤平『連れて行きたいところがあるんです』

潤平の言葉に
不思議そうな顔のはるか

――――――――

都内のとある教会


美しいイルミネーションの装飾がされている

はるか『わぁ、キレイ』

目を輝かせて言うはるかを見て
嬉しそうな潤平

潤平『ここ、まだ父さんと母さんが仲良かった頃
   家族でよく来たんだ』

はるか『そうなの?』

潤平『うん、クリスマスと言ったら
   俺はここなんだよね』


教会の前のベンチに座る潤平
その隣に座るはるか

潤平『皆でこのベンチに座って
   キレイだね~って見てた』

はるか『うん…本当にキレイ』


教会を見上げる潤平に

少しうつむきながら
はるかが話しを切り出す


はるか『望月くん…あの…
    合宿の時のことだけど…』

潤平『あれは、本気だから』

はるか『でも私は…』

潤平『わかってる
   先生の気持ちはわかってる

   …困らせちゃってごめん』

はるかの言葉を遮るように強い口調で言う

そして

一息ついて
静かに話し出す潤平

潤平『先生の心の中に
   今でも雅紀さんがいるのはわかってる
   
   俺、待ってるから

   先生の気持ちが俺に向いてくれるまで
   待ってるから

   …先生のこと好きでいてもいい?』


まっすぐとはるかを見る潤平の瞳は

イルミネーションの光が写って
キラキラと輝いている

そんな瞳を見て
目をそらすことが出来ないはるか

そして答えた


はるか『…うん』

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