僕は、先生に恋をした
僕は、先生に恋をした⑦
お寺
はるかと義父と義母が
雅紀の墓の前で手を合わせている
亡くなって丸三年
今日は雅紀の命日
はるかは複雑な思いで
雅紀の墓の前にいた
もちろん
雅紀のことは
今までもこれからも愛している
それは確かなことだ
ただその一方で
潤平に惹かれ始めている自分がいる
そんな複雑な心境のまま
雅紀に手を合わせている自分が
恥ずかしくもあり
情けなくもある
きっと
雅紀はこんな自分の心の中を
見透かしているだろう
『ねぇ、雅紀さん
こんな私を見てどう思ってる?
ガッカリしてる?それとも、怒ってる?』
はるかが心の中で
雅紀に問いかける
自分は何て
最低な人間なんだろう…
そう思うと
目の前の雅紀の墓を前に
謝ることしか出来ないはるか
――――――――――
橘家
墓参りから帰り
部屋で着替えているはるか
コンコン
部屋をノックする義母
はるか『はい』
義母が顔を覘かせる
義母『はるかさん、ちょっといいかしら?』
はるか『あ、はい』
はるかが階段を下りて
居間へ行くと
義父が椅子に座っている
義母が3人分のお茶を入れて
義父の隣に座る
二人の前に座るはるか
すると
テーブルの上には書類が
置かれていた
その書類を見て、はるかが驚く
はるか『復氏 … 届… 』
復氏届とは
橘家の戸籍から抜け
元の戸籍に戻るということ
もう
『橘はるか』ではなくなるということ
義父『雅紀が亡くなって
もう、3年も経ったんだな…
本当はもっと早く
こういった話しをするべきだったんだろうが
なかなか
雅紀の死が受け入れられず
こんなにも長い時間がかかってしまってね…
はるかさんには申し訳ないと思ってる
すまなかったね』
はるか『そんな…』
義父の言葉に、首を振るはるか
すると
義父がもう一枚書類を取り出し
テーブルの上に置く
姻族関係終了届だ
驚くはるか
はるか『あの… これって…』
姻族関係終了届とは
雅紀はもちろん、義父や義母との
関係を解消するということ
つまり
橘家と、縁を切るということ
義父『今まで、橘はるかとして
雅紀と…私達と一緒にいてくれて
どうもありがとう
はるかさんは、雅紀にとっても
私達にとっても
本当に良いお嫁さんだったよ』
義母『きっと…雅紀は幸せだったと思うわ
あなたと出会えて、かわいい息子まで出来てね
短い人生だったけど
雅紀は自分の人生を全うした
私達はそう思ってるの』
目に涙を浮かべながら言う義母
義父『しかし
はるかさんのことを考えると
姻族の関係を解消した方がいいと思ってね
はるかさんのこれからの人生に
私たちの存在が
邪魔をしてしまってはいかんからな…』
義母『だからね…はるかさん』
はるかの手をギュッと握る義母
顔を上げるはるか
義母『もし、将来いい出会いがあったら
その人と幸せな未来を築きなさい
はるかさん、あなたまだ32歳でしょう
あなたが幸せになることを、誰も責めたりしない
雅紀や私たちに遠慮したり
重荷に感じたりする必要なんて全くないのよ
だから
自分の人生を大切にしなさい』
義母の言葉に
はるかの頬に涙がつたう
そうだ
あの時
潤平にも同じことを言われた
『自分の人生を大切にしなよ』
その瞬間
こらえきれず
声を出して泣き出してしまうはるか
そんなはるかの背中を
優しく擦る義母