僕は、先生に恋をした
学校
ガラガラ
扉を開き
はるかが教室に入る
はるかの姿を見て
嬉しそうな潤平
はるか『みなさん
昨日は突然お休みしてしまってごめんなさい』
そう言って生徒達に頭を下げる
『先生おかえり~』
『大丈夫?心配したよ~』
生徒達の声に
はるかが笑顔で答える
――――――――――
休日 公園
友達と遊具で遊んでいる悠人を見て
微笑むはるか
すると
横でキャッチボールをしている
父親と息子の姿が目に入る
楽しそうにキャッチボールをしている親子を
はるかは複雑な心境で見ていた
悠人『ママー!』
滑り台を滑りながら
悠人がはるかに向かって手を振る
そんな悠人に
笑顔で手を振り返すはるか
――――――――――
望月家
参考書を探している潤平
カバンの中を探すが見当たらない
教室の机の中に忘れてきてしまったようだ
潤平『父さん、学校行ってくる』
休日にもかかわらず
仕事をしている克彦に声をかける潤平
克彦『…今日は学校休みだろう』
潤平『ちょっと忘れ物しちゃって…』
克彦『そうか』
潤平に見向きもせず
答える克彦
潤平が家を出る
外はとてもいい天気だ
雲一つない真っ青な空を見て
潤平は歩いて学校まで行くことにする
――――――――――
その頃
公園で友達と別れ
自転車の後ろに悠人を乗せるはるか
ピロピロピロピロ…
携帯が鳴る
教頭からだ
はるか『もしもし』
教頭『あ、橘先生?お休みの日に悪いね
例の今週提出の資料なんだけどね…』
はるか『…わかりました
ちょうど学校の近くにいるので
今からそちらに取りに行きます』
電話を切って自転車に乗り
はるかが学校へと向かう
――――――――――
学校
校舎の前に自転車を停めるはるか
悠人を自転車から降ろそうとする
悠人『やだ、行きたくない』
そう言って
自転車を降りない悠人
はるか『そんなこと言わないの
すぐ終わるから、一緒に行こう?』
悠人『やだ!』
はるか『悠人~お願いだから』
悠人がぷいっと横を向く
ため息をつくはるか
はるか『…わかった
じゃあママすぐ戻ってくるからね
良い子で待っててね』
悠人にそう言うと
走って職員室に向かうはるか
その時
はるかとすれ違うようにして
潤平が校舎から出てくる
しかし
お互い気付かない二人
校舎の外では
悠人が一人
自転車から降りようとしていた
気になった潤平は
悠人に近寄り、声をかける
潤平『降りたいの?』
突然、潤平に声をかけられ
驚く悠人
悠人『…うん』
恥ずかしそうに小さく頷く
潤平は笑いながら
悠人を抱えて下に降ろしてあげる
潤平『はい、どうぞ
…僕一人?』
悠人の視線に合わせてしゃがむ潤平
悠人『ううん、ママと来たの』
潤平『ママはどこにいるの?』
悠人『学校』
そう言って
校舎を指差す悠人
続けて悠人が自慢げに言う
悠人『僕のママ、ここの先生なんだ』
悠人の言葉に驚く潤平
潤平『僕、お名前は?』
悠人『たちばなゆうと!』
その名前に潤平はビックリするが
次の瞬間
笑って悠人にこう言った
潤平『悠人のママ
お兄ちゃんの先生なんだよ』
不思議そうな顔をする悠人
その時
はるか『悠人!!』
悠人の元へ
心配そうな顔をしたはるかが駆け寄る
立ち上がり振り向く潤平
悠人と一緒にいた男性が
潤平だったことに気付くはるか
悠人『あ、ママ!』
振り向く悠人
戻ってきたとたん
やはり寂しかったのか
はるかにべったりと引っ付く悠人
潤平『先生のお子さんだったんですね』
はるかと悠人の姿を見て微笑む潤平
そして
わざといじわるな言い方をして
こう続けた
潤平『ダメですよ、先生
子供を一人にしちゃ』
はるか『…ごめんなさい』
はるかの言葉に
笑う潤平
悠人『ママーお腹すいたー』
悠人がはるかのロングスカートを引っ張る
そんな悠人を見て
潤平がくすっと笑い
しゃがんで悠人に言う
潤平『よし悠人
お兄ちゃんとご飯食べに行くか!』
悠人『うん!行くー!』
はるか『…え、ちょ、ちょっと悠人』
二人の会話を聞いて
困るはるか
はるか『悠人、家でご飯食べるの
おじいちゃんもおばあちゃんも待ってるでしょ』
悠人『やだーお兄ちゃんとご飯食べるー!』
困っているはるかをよそ目に
悠人に話しかける潤平
潤平『悠人は何が食べたい?』
悠人『僕ねーハンバーグ!』
潤平『お!奇遇だね
お兄ちゃんもハンバーグ好き』
盛り上がる二人の後ろで
はるかの表情は浮かない
――――――――――
レストラン
結局、二人に負けて
レストランに連れて来られたはるか
化粧室の前で義母に電話をしている
義母『いいのいいの
たまには外で食べてらっしゃい』
はるか『すみません…
遅くならないように帰りますから』
はるかが電話をしている後ろで
席に座っている潤平と悠人は
さらに仲良くなっている
はるか『ふぅ…』
電話を切ってため息をつくはるか
二人が座る席へと向かう
――――――――――
橘家
はるかからの電話を切る義母
ちょうど、夕食の準備をしようとしていたことろだった
義母の前にはたくさんの食材が並んでいる
少し考える義母
義母『ま、明日にするか…』
そう言って電話を置いた
――――――――――
レストラン
ご飯を食べている三人
自分の食事は後回しで
横にいる悠人の食べこぼしや
口に付いた汚れを拭いているはるか
そんなはるかの姿を
正面に座っている潤平が
優しい笑顔で見ている
ようやく
自分のハンバーグを食べようとするはるかは
笑っている潤平に気付く
はるか『…なんで笑うの?』
潤平『いや…先生、やっぱり母親なんだな~と思って』
はるか『どういう意味よ』
潤平に笑われて
少しムッとした表情のはるか
潤平『俺、先生が教師やってるところしか知らないから
こうやって子供の世話してる姿が
なんか…新鮮っていうか…面白くて
あははは』
はるか『何それ』
潤平の笑い声に釣られて
はるかも自然と笑顔になる
悠人『ママーにんじん残してもいい?』
はるか『だめー!
ちゃんと食べなきゃダメって
ママいつも言ってるでしょ~』
悠人『ぶー』
嫌いなにんじんを目の前にして
ふてくされる悠人
そんな悠人を見て笑う潤平
潤平『悠人、お兄ちゃんが半分手伝ってあげる』
そう言って
にんじんをナイフで半分に切る潤平
悠人『本当?』
潤平『その代わり
せーので一緒に食べような』
悠人『うん、いいよ!』
フォークににんじんを刺したまま
構える二人
潤平・悠人『せーの!』
にんじんを一緒に食べる二人の姿に
ついはるかも笑ってしまう
潤平『実はお兄ちゃんも悠人と同じくらいの頃
にんじんが大嫌いだったんだ
だけど、大人になって大好きになったんだよ』
悠人『へぇー!』
そう話す潤平を
尊敬の眼差しで見る悠人
はるか『望月くん、その話し…本当?』
潤平『本当ですよ』
疑うはるかに
笑顔で返す潤平
――――――――――
潤平『先生、今日は僕に払わせてください』
潤平の言葉に驚くはるか
はるか『それはダメよ…だって』
潤平『教え子には払わせられないって?
言っときますけど
俺だって一応働いてるんですよ
それに、無理矢理誘ったの俺なんで』
そう言って
はるかの言葉も聞かず
潤平がお金を払う
はるか『ちょっと…望月くん!』
財布を持ったまま困っているはるか
そんなはるかを見て潤平言う
潤平『じゃあ、また次回奢ってください』
はるか『え…?』
潤平『悠人、また一緒にご飯行こうな!
次までに一人でにんじんが食べれるように
ちゃんと練習しておくんだぞ』
潤平が悠人に言う
悠人『うん、練習する!』
潤平『悠人えらいな~』
元気よく返事をする悠人の頭を
笑いながらポンポンと撫でる潤平
潤平『先生、外もう暗いんで送ります』
はるか『あ、うん…ありがとう』
はるかの返事に
潤平が嬉しそうに笑う
――――――――――
帰り道
疲れて寝てしまった悠人を
潤平がおんぶをしている
悠人は気持ち良さそうに
潤平の背中の上で寝息を立てている
その隣で自転車を引くはるか
はるか『望月くん
子供にスゴい慣れてるのね』
潤平『姉ちゃんの子供が悠人と同じくらいなんです』
はるか『そうだったんだ…どうりで慣れてるわけね』
潤平『今は姉ちゃんも結婚して出ていったけど
しょっちゅう旦那と喧嘩して
甥っ子連れて泊まりに来るんで』
潤平の話しに
声を揃えて笑う潤平とはるか
一瞬
無言になる二人
潤平『牧田、親と離れて一人暮らしするみたいです』
はるか『そう…』
潤平『俺、先生が担任で本当に良かった』
はるか『…え?』
潤平の言葉に驚くはるか
潤平『俺が高校入る前
ウチの母親、男と出て行って
そっから俺…結構荒れちゃったんで
高校は卒業出来なかったんです
そん時の担任の先生
俺の顔すら覚えてなかったんですよ
笑えるでしょ』
そう言って、笑う潤平
はるか『…どうしてまた学校に通おうと思ったの?』
潤平『将来、俺が父親の工場を継ぐことになったら
やっぱり高校だけは卒業しといた方がいいからって
今の定時制高校に通うことにしたんです
俺にとって、学校に行く理由は
それだけだったんです…
卒業さえ出来たらそれで良かったし
学校に楽しさなんて求めてなかった
でも
橘先生がクラスの担任になって
生徒に対してこんなにも
親身になってくれる先生もいるんだなって
そう思ったら…
学校行くのが楽しいって
そう思えるようになったんです』
笑顔で語る潤平
素直な潤平の言葉に
戸惑いながらも喜ぶはるか
潤平『すいません
俺、自分の話しばっかりベラベラしゃべっちゃって…』
はるか『ううん、色々話してくれてありがとう』
はるかの言葉に
照れた表情を見せる潤平
そして
潤平が突然立ち止まる
それに気付き
はるかも立ち止まる
真剣な顔をして
潤平が口を開いた
潤平『先生は…
先生は旦那さんと上手くいってるんですか?』
まっすぐな瞳ではるかを見つめる潤平
一瞬、戸惑うはるか
はるか『…うん…
上手くいってるよ』
笑顔でそう返すはるかだが
その表情は
どこか寂しくて切ない
しかし
このとき潤平はまだ
そんなはるかの気持ちに気付いてはいなかった