僕は、先生に恋をした
合宿当日
マイクロバスに乗り込む生徒たち
潤平とタクミはみんなの荷物をバスに積んでいる
クラスの生徒ほぼ全員が参加しているようだ
『良い天気で良かったね~』
『本当だね~』
教頭『はい、荷物積んだ人からバス乗りなさい』
『はーい』
バスに乗り込む生徒一人一人に
しおりを手渡す教頭
教頭はやたら張り切っているようだ
しかし
そんな教頭が
しきりに腕時計を見ながら
時間を気にしている
そんな教頭にタクミが声をかける
タクミ『教頭先生、木の実先生って…』
その時
教頭が何かに気付き
大きく手を振る
教頭『おーい!こっちこっち!!』
そこには
バス向かって走るはるかの姿
タクミ『え…橘先生?』
タクミの言葉に
荷物を積んでいた潤平が目を向ける
視線の先には
バスに走って向かってくるはるか
驚く潤平
バス内でもはるかの姿に気付く生徒たち
未だにクラスから孤立している夏美も
はるかが来て嬉しそうな表情をする
そんな中
洋介はバスの窓から
はるかと潤平を見て微笑んでいる
はるか『ハァハァ…良かった間に合った』
苦しそうなはるか
教頭『橘先生良かった~間に合って!
突然すいませんでした
お子さんは大丈夫でしたか?』
はるか『ハァハァ…はい、両親にお願いしてきたので
大丈夫です』
教頭『さ、早くバスに乗ってください
もうすぐ出発しますよ』
はるか『あ…はい』
教頭『ほら、君たちも乗って』
教頭が潤平とタクミに声をかける
教頭の言葉に
バスに乗り込むタクミ
潤平『先生…どうしたんですか?』
潤平がはるかの荷物を持ちながら聞く
はるか『あ、ありがとう
木ノ実先生、熱が出て行けないって
昨日の夜電話があって…』
潤平『…そうだったんですね
悠人は大丈夫でした?』
はるか『うん、いってらっしゃいって
笑顔で見送ってくれた』
はるかの荷物をバスに積む潤平
潤平『そっか…良かった』
そう言って
くしゃっと嬉しそうに笑う潤平
はるかが来たことが本当に嬉しいようだ
出発
バスの車内では
みんなそれぞれ楽しそうに過ごしている
耳にイヤホンをして音楽を聞きながら
窓の外を眺める夏美
潤平と洋介とタクミは三人でしゃべっている
はるかも女子生徒たちと楽しそうに話している
そんな車内
潤平は斜め前に座っているはるかのことが
気になって仕方ない
――――――――
キャンプ場
教頭がバンガローを案内する
向かって右が男子
左が女子のバンガロー
そしてその真ん中には炊事場所がある
教頭『よし、みんな今から飯盒炊飯をする
6時に夕御飯、そこからは自由時間だが
森の中は暗くて危険だから入らないように!
自由時間の間は男女のバンガローは
お互いに行きしてもよしとするが
午後9時半にはそれぞれのバンガローに戻るように!
10時に消灯する』
『え~10時消灯って早すぎ!』
『小学生じゃないんだから~』
『教頭時間に細かすぎだし~』
教頭の言葉にブーイングの嵐
その様子を見て笑うはるか
教頭『じゃあ
荷物を片付けた者からここに集合するように
男子は私と一緒に行動するからな』
『はーい』
教頭の言葉に男子が声を合わせて返事をする
教頭『じゃ、橘先生
女子の方お願いします』
はるか『はい、わかりました
じゃあ、女子のみんなも荷物置いたら
ここの炊事場に集合してね、夕御飯の支度をします』
『はーい』
はるかの言葉に返事をする女子たち
――――――――
森で枝を集める男子たち
潤平たちもキャンプファイヤー用の
薪を割っている
教頭が木の説明や自然にまつわる話をしているが
生徒たちは誰一人聞いていない
男子たちが森から炊事場に帰ってくると
キャーキャー盛り上がりながら
夕御飯の準備をしている女子たち
『先生すごーい!やっぱり主婦だね~』
『先生~じゃがいもの目ってどうすればいい~?』
その声に目を向ける潤平
はるかが女子生徒に
包丁の使い方を教えている
その姿を見ながら潤平が微笑む
――――――――
夕食の時間
キャンプファイヤーを背にして
テーブルを囲む生徒たち
テーブルの上にははるか達が作ったカレーを中心に
たくさんの料理が並んでいる
紙コップに入った烏龍茶を片手に
話しを始める教頭
教頭『え~今日は、みんな参加してくれてありがとう
都合が悪くてどうしても来れなかった生徒もいるが
こうして大自然に囲まれて
みんなと楽しい時間を共有できて
先生はとても嬉しいです
え~…』
『教頭先生~長い~』
『お腹すいた~』
ヤジを飛ばす生徒たち
教頭『わかったわかった…じゃああと一言だけ
今日は体調を崩された木の実先生に代わって
急遽来て下さった橘先生に、みんな拍手!』
パチパチ…
みんながはるかに向かって激励の拍手を贈る
潤平も笑顔で拍手している
はるかは恥ずかしそうに笑って
お辞儀をする
教頭『え~…』
話しを続けようとする教頭
『みんな、カンパーイ!』
話が長い教頭に代わり
隣にいたタクミが乾杯をする
『カンパーイ!!』
タクミの声に
みんなが一斉に乾杯をする
残念そうな顔をする教頭
それを見て笑う生徒たち
キャンプファイヤーの薪が燃える音と
みんなの笑い声が
キャンプ場に響き渡る
――――――――
『いやー食った食った』
『トランプしよーぜー』
『やろやろー』
夕食後
片付けながら盛り上がる生徒たち
みんなの話しを聞きながら
笑顔で食器を洗うはるかと夏美
はるか『牧田さん、一人暮らしはどう?』
夏美『一人で生活するって大変だけど
やっと自由になれた気がするんだ…
私、ちゃんと自炊もするんですよ』
はるか『そっか~
牧田さんはちゃんと前に進んでるんだね
何かあったら一人で抱えないで
先生に相談してね』
夏美『うん、ありがと』
そう言ってはるかに微笑む夏美
夏美『そうだ、先生…今度料理教えて!』
はるか『私で良ければいつでも』
笑いながら言うはるか
そんな二人の話しを聞いて
そばにいた潤平が微笑んでいる
『先生も牧田さんもー!
みんなでトランプしよー!』
食器を洗っているはるかと夏美に
声をかける生徒たち
はるか『これが終わったら行くねー』
今日を機に
夏美も女子たちと仲良くなったみたいだ
――――――――
男子のバンガロー
みんな思い思い
楽しい時間を過ごしている
『また教頭先生が一番だー!』
『え~!なんでー!』
教頭とトランプをしている生徒たちが盛り上がっている
楽しそうにはしゃいでいるみんなを見ながら
はるかは台所でコーヒーを入れている
女子生徒『先生、コーヒー淹れてくれてるんだ!』
はるか『うん、これ持って行ってくれる?』
女子生徒『はーい』
女子生徒がコーヒーをお盆の上に乗せて
みんなのところまで運ぶ
女子生徒『みなさん、コーヒー入りましたよ~』
『おおー!』
歓声をあげる男子たち
女子生徒『紅茶がいい人はこっちねー』
『おおー!気が利くねー!』
男子たちの声に
女子生徒が自慢げに言う
女子生徒『まー、淹れたのは橘先生なんだけどね!』
『なんだよそれー!』
『お前が自慢げに言ってどうする!』
ふざけ合う生徒たちを見て笑っているはるか
ふと、はるかが時計を見る
時刻は9時を示している
そして
おもむろに携帯を取り
ジャケットを着て外に出る
そんなはるかに気付いた潤平も
席を立ち、ジャケットを持って
はるかを追うように外へ出る
そんな二人の様子に気付く洋介
――――――――
潤平が外に出ると
はるかは電話をしていた
はるか『…うん…うん、そっか
ちゃんとおばあちゃんの言うこと聞いてね…
うん、ママ明日帰るからね…おやすみ』
電話の相手は悠人だろう
電話を切ったはるかが
潤平に気付く
潤平『先生、少し話せますか?』
――――――――
キャンプファイヤーの前で
座っている潤平とはるか
潤平『先生、悠人のこと
今日ずっと心配してたでしょ?』
はるか『…え?…う、うん』
潤平『大丈夫だよ、先生
悠人は男の子なんだから』
はるか『うん…そうだね
悠人は、私が思ってるよりもずっと
強い子なのかも』
少し寂しそうなはるか
そんなはるかを見て潤平が言う
潤平『先生は今日楽しかった?』
はるか『うん、すごく楽しかった!』
笑顔で答えるはるか
潤平『俺も!すごい楽しかった!
こういう機会を作ってくれた
教頭先生に感謝だね』
はるか『そうだね』
笑い合う二人
潤平『俺ね…今日の合宿
橘先生が一緒だったら
どんなにいいだろうって思ってたんだ
だから今朝、本当に先生が現れた時は
すごいびっくりした
…けど、嬉しかったな』
くしゃっと照れ笑いする潤平
潤平に釣られて笑うはるか
そんなはるかを見つめる潤平
潤平『俺、先生が好きだよ
先生に初めて会った時からずっと…』
突然の告白
戸惑うはるか
真っ直ぐな潤平の瞳がまともに見れず
うつ向いてしまう
はるかの視線の先には
薬指の指輪
それに気付く潤平
はるか『あの…わたし…』
潤平『ごめん
先生を困らせたい訳じゃなかったんだ…』
気まずい空気にたまらず立ち上がり
キャンプファイヤーの方へ行く潤平
潤平『もうすぐ9時半だから
先生…先にバンガロー戻って
俺、火消してから戻るから』
はるかに背を向けたまま言う潤平
潤平の言葉に
はるかが立ち上がる
はるか『…じゃあ、先に戻るね』
戸惑った表情のまま
その場を後にするはるか
はるかが立ち去ったあと
その場にしゃがみこみ
頭をかいて、大きくため息をつく潤平
はるかに気持ちを伝えてしまったことを
後悔していた
『あーちくしょう…
言うつもりなかったのに…』
――――――――
バンガローにいた夏美が
カーテンを閉めようとした時
そんな二人を
ガラス越しに偶然見てしまう
もちろん
二人の会話は聞こえないが
はるかが去った後の潤平の様子を見て
何か怪しいと思う夏美
そんな中
はるかがバンガローに戻ってくる
玄関で教頭がはるかに気付き
声をかける
教頭『橘先生、どこ行ってたんですか?』
はるか『すいません、ちょっと家に電話を…』
教頭『大丈夫でした?』
はるか『あ、はい大丈夫です』
教頭『ところで…
望月くん見かけませんでした?』
教頭の言葉につまるはるか
はるか『あ、今キャンプファイヤーの火を消してくれてます』
教頭『あーそうでしたか』
はるか『はい…』
次の瞬間
玄関の扉が開き
潤平がバンガローに戻って来る
お互いビックリするはるかと潤平
目を合わせない二人を見て
不自然に思う夏美
洋介もそんな二人の様子に気付く
――――――――
夜
女子バンガロー
爆睡している生徒たち
はるかが丸窓から夜の空を見ている
何を考えているのだろうか
その目には
うっすらと涙がうかんでいる
男子バンガロー
こちらもみんな爆睡している
疲れたのか
教頭がイビキをかきながら
隣で寝ているタクミをひと蹴り
タクミはそれに一瞬起きるが
寝言を言いながらまた眠りにつく
その中で
潤平だけが寝れずにいた
仰向けになり天井を見ながら
思いつめた表情をしている