神様の落としもの
俺はカバンから部屋の鍵を取り出し、ガチャッと開けた。

年季の入ったドアはもちろん、ギィィィっと音を立てて開く。

真夜中のドアの開く音は入居当初、少し怖く感じたが、今ではドアが『お帰りぃぃ』と言ってくれているような気がして、この音も悪くないな!と思えてきた。

俺は「ただいま。」と声を掛け、誰もいない真っ暗な部屋に明かりを付ける。

電気は数秒付いたり消えたりを繰り返してようやく付く。

俺は部屋に入るととりあえず、テレビを付ける。

見るわけではないが、やはり一人暮らしの部屋は静かで殺風景でどことなく落ち着かない。

音が聞こえているだけで、なぜか安心する。

俺はキッチンに立ち、早速料理を始めた。

テニスの後は本当に腹が減る。

沸々と沸いたお湯の中にラーメンをつっこみそのまま適当に煮る。

大抵の夕食はラーメンとご飯だ。

「いただきまーす。」

俺は早食い競争でもしているかのように、ラーメンとご飯を駆け込んだ。

ゆっくり味わって食べるほどの物でもないからだ。

むしろ早く食べて寂しさを感じないように自分の体が無意識に、そうしていたのかもしれない。

母の味が恋しいと言う友達の気持ちが、人生19年目にしてようやく実感出来た。

俺は携帯電話を手に取り、5分ばかし眺めた後で電話帳を回した。

佐家神…佐家神…

「もしもし?俺。うん。元気でやってるよ。ねぇ、頼みがあるんだけど…おかず色々送ってくれない?かぁちゃんの飯が恋しくなってさぁ…。」

はぁ…。

俺は携帯電話をパタリと閉じたと同時に大きな溜め息を付いた。

頼っちゃった…。

自立するって決めたのになぁ~。

俺は携帯電話を布団の上にポーンと投げ、そのまま床に仰向けに寝っ転がった。

月明かりで部屋の壁にぼんやりと映し出された窓際の木の陰が、俺をあざ笑うかのように揺れている。

まさか飯の事で挫折するなんて思わなかったよ。

自炊始めなきゃなぁー…。
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