瞳の奥
「よっ!」
赤いネクタイ。スラッと伸びた脚に癖っ毛の茶髪。笑顔で近付いてきた男の子。
「ん~、どうしたの、こんなとこまで。」
いつもの笑みを浮かべて相手に問いかける。お弁当の手もスマホを弄る手も止めずに。耳だけ、傾けたまま。
「小山海人!中学三年生、伝えたいことがあります」
大きな声を張り上げた彼。
そう、彼は小山海人くん。陽気で優しくてフレンドリーで。馬鹿だけどスポーツ万能。爽やかな容姿からもわかるようにまさにモテる男。
八重歯を覗かせて優しそうに微笑むと小山君はあたしに近付く。
小山君のほうを向いてはいないけど、足音でなんとなくわかる。
大好きな卵焼きを箸で掴み、口もとに近付けた時。
「・・・?」
手がぎゅっと握られ相手の力にも敵わずされるがまま。
あたしの箸が小山君の口もとに運ばれて、気付いたときには卵焼きは無かった。
「ん~、んま!これ、優美が作ってんの?」
「え、あ、ううん、お母さん」
「へえ、これ上手い!俺もほしい!」
「あ、お母さんに頼んでみるよ!」
「マジ!?やった、優美んちの味、やば~うまい」
状況が掴めないあたしとは真逆。小山君は次々と話を進める。
「なんで一人で食うの~?お昼みんな優美探してんだぜ?」
「あ~、そうだったの?」
意外なことを聞かされて、つい話に入ってしまう。
「優美、人気なんだからさ~みんな一緒に食いてえの!だからたまにはさ、教室で食おうぜ~」
「うんっわかった!」
・・・・・・・・・・はあ。明日、ここに来ることは無理そう。