冷たい彼-初恋が終わるとき-
緊張を解すために深呼吸してると、勢いよく屋上の扉が開いたのが分かった。
何のための深呼吸だったのか、カチンコチンに固まってしまう。乱れそうになる呼吸を整えてから、ゆっくりと振り返った。
そこには何度も見てきた癖のある茶髪と黒渕眼鏡。屋上に飛び込んできたらしい小田切君は走ってきたのか、髪が乱れていた。肩で息をして、こちらに歩み寄ってくる。
「っごめん、待たせたか?」
「う、ううん、今来たところ」
「本当にごめんな」
横に首を振ったのに、また謝られた。まだ呼び出した時間の五分前なのに律儀な小田切君。内心、早めに来といて良かったと胸を撫で下ろす。
「仮屋先生に呼び止められちゃって。あの先生話長いんだよ」
「そ、そうだよね」
文句を言う小田切君は素で、ドキドキする。
私の知る小田切君は文句の一つも言わなさそうな好青年。今まで遠くでしか見てこなかった小田切君が、目の前にいる。
私は今、平然と話せているだろうか。小田切君を目の前にして。
初めて、彼の前に立つ。正直言うと手が震えてきてるし、逃げ出したい気持ちで一杯だった。
小田切君が私を見てる事に息苦しくなる。怖いし、悲しいし、痛い。それでも、もう逃げ出す訳にはいかないのだ。私は今から、安全を保っていた殻を破り捨てる。