冷たい彼-初恋が終わるとき-
花霞side
*
目尻から伝う涙をもう一度、拭う。
息を吸い込み、空を仰ぐと、気の遠くなるほど高く淡青の冬の空がある。
まるで何もかも吸い込んでしまうような青さ。それでも空が抜けるような青さに澄み切ってる。
深呼吸するように緩やかに息を吐く。
何だが凄く穏やかだ。冷たい風が心地好い。
ーでも、私にはまだ、しなければならない事が残っていた。
二度目の緊張感に包まれる。私はもう一つケジメをつけなければならない。
臆病だった私はずっと桐生君に縋っていた。
桐生君に包まれる事で前を見ないで、ずっと閉じ籠って。あまりに心地好かった桐生君の腕の中で、泣きじゃくって。優しい桐生君を逃げ場にして、現実から目を逸らしていた。
でも、それも終わらせなくてはならない。
「出てきていいよ」
小田切君が去った後、空を仰いでその場に立っていた私はそう呟く。
「ーー桐生君」
風に掻き消されてしまいそうなぐらいに小声だった。
しかし桐生君には確かに届いたようで背後から、着地する音がする。
「全部、聞こえてたよね」
最初から、一人では無かった。私が頼んだのだ、此処に隠れて黙っていて欲しいと。
ここに来る前に“彼”を呼び出した。