冷たい彼-初恋が終わるとき-
私達は付き合っているんだ、一緒に帰っても可笑しくは無い。恋人なんだから。
一番動揺しているのは、周りより私なのかもしれない。
まだ名前を呼ばれることも、恋人として振る舞われることにも、慣れない。
「…帰るぞ、花霞」
「う、ん」
「…手出せ」
突然桐生君は私に手を差し出してきたから、握り返した。
でもーー
「…お前、わざと?」
握手を求められたわけではないらしい。
「ふぇ?」
「…チッ」
「…っひ、」
「…いちいち脅えるな。うぜえ」
ぷるぷる震えてうるうると瞳に涙をためれば、またあの怖い顔。
「な、なら睨まないで?」
「…あ"?」
「こ、ここ怖いの!」
「……」
言い切った!と言わんばかりの達成感。じっと桐生君を見上げていれば、少し間をあけてから眉根の皺を和らげた。
「…別に睨んでねえよ」
「え?」
「…女ってダルい。怖いとか、よく言われる。俺に突っ掛かってくる女なんて"アイツ"くらいだ」
「…そっ、か。桐生君は怒ってるわけじゃないんだね。よく怖い顔するから怒られてるのかと思ってたの…」
「…元からこんな顔で悪かったな」
「ひ…っ。 ほ、ほらぁ。ま、また睨むんだもん」
「…うるせえブス」
「ううう…っ」
あえて聞かなかった。桐生君が言った"アイツ"の事を。誰の事なのか。それがきっと桐生君のなかにいる女の人。
否、聞かなかったのかもしれない。桐生君が一瞬だけ見せた目があまりにも寂しそうに揺れていたから。