冷たい彼-初恋が終わるとき-
名前呼びは恥ずかしい。慣れないことは恥ずかしい。頭で色々と理由をつける。でも何故か"蓮"と呼べない理由が出てこなかった。本当はただ、名前で呼ぶことを境界線にしてるだけの気がする。
名前を呼ぶたび、こう言う関係を築いてしまったことへの後悔とか罪悪感が募る。
彼と出逢ったときのことを思い出して何度も、歩みを立ち止まってしまう。
これ以上、後ろを振り返らないための保険なのかもしれない。
"蓮"と呼ぶのは私じゃない。"蓮"と呼べる"特別な子"は彼の心のなかにいるんだと。
呼ぶことを躊躇してる。
「…名前、呼べるときがきたら呼べ」
「え」
「…何だその顔」
「だ、だって…」
きっと間抜け面だと思う。
「…別に無理強いはしねえ。言っただろ。俺を利用しろって。お前の気持ちの整理がついたら踏み込んでくればいい」
「…あ、りがとう」
ぶっきらぼうだけど。無愛想だけど。顔怖いけど。すごく優しい。今一瞬だけ私の目を見て"お前に任せる"って目で合図してくれた。不器用だけどやっぱり桐生君は、すごく優しい。
ーーと思ったのに。
「…確かにお前がびくびくしてるのは見ててウゼえ。でも俺にとっては扱い易い。睨めば黙らせられるから格好の獲物だな」
「……っ!?」
「…ぷるぷる震えんな。泣かせたくなる」
やっぱり桐生君は怖かった。