冷たい彼-初恋が終わるとき-
ーーそして付き合い初めて早三日。
「…花霞、数学の教科」
「ま、また忘れたの?」
咎めるように呟けば、相変わらず目に入れても痛くないくらいの美貌で睨み付けてくる桐生君。
私は慌てて、謝りながら鞄の中から教科書を取り出した。
何で桐生君は毎日毎日、私に教科書を借りに来るんだろう。
忘れ物が酷すぎやしないか。だから私は正義を掲げ、声を大にして言った。
「桐生君、ダメだよ!教科書くらいちゃんと持ってこないと!真面目に授業受ける気あるの!?」
「…あー"…何か今すげえ耳障りな声聞こえたわ…」
「きょ、教科書どうぞ…」
ギロリと睨まれてぷるぷる震える手で教科書を差し出す。教科書を引ったくるようにして奪った桐生君は「始めっから素直に渡しとけばいーんだよ」的な目で嘲笑った。
すると突然、私達の会話に割って入ってきたクラスメイトの男子。
「口実、だよね」
「え?」
「蓮は椎名さんに会いにくるためにわざと教科書を忘れたんだよ」
サラサラの黒髪に吊り目の黒い瞳の彼は、落合 芽生。
一匹狼の彼に話し掛けられたことにキョドるが、落合君は桐生君をじっと見つめていた。そして何故か桐生君の機嫌が急降下。舌打ちをして落合君を睨み付ける桐生君と、飄々とする落合君に挟まれる私は冷や汗だらだらだ。