冷たい彼-初恋が終わるとき-
髪を掬っていた早乙女君の手首を掴んだのは訝しげな顔をする桐生君だっだ。ホッとするのも束の間、桐生君は眉根を寄せる。
「…お前、ミスコンに出てたのか?」
「出てたよねー?途中でどっかに消えちゃって結局棄権しちゃった子。噂では控え室に閉じ籠ったって話だけど」
「…黙れ。お前に聞いてねえよ」
早乙女君は九官鳥のようにピーチクパーチク喋る人だ。睨まれてもへらへら笑っているからきっと鋼の心の持ち主。
「…出場者には、選ばれた、よ…」
去年のミスコン。優勝者は如月日莉さんだった。ティアラを頭にのせて、トロフィーを掲げている写真が載った校内新聞が、掲示板に貼られていた。先日の覚めあらぬ興奮のなか、皆が騒いでる傍で静かに掲示板を見たそのとき初めて、優勝者を知った。
「…途中でお腹痛くなっちゃって…」
「「……」」
「…出たくもなかったのに無理やり出されて…化粧もされて…揉みくちゃにされて…そしたら泣けてきちゃって…」
「「……」」
「…終わるまでトイレで泣いてました…」
流されるままに出されてしまったミスコン。あれは悪夢だった。舞台袖から見えた客席数にビックリして、お腹が痛くなって、泣きじゃくって。何で私なんだろうって頭を抱えていた数時間。
桐生君と早乙女君は黙ったまま顔を見合わせると、可哀想なものを見る目で私を見下ろしてきた。