ボーダー・ライン
「う……あぁっ」
妙な唸り声を上げながら、僕はパソコンの電源を強制的に落とした。
僕は、彼女から逃げた。
電源ボタンを長押しされたパソコンは「きゅん」という切ない音を立てて事切れる。
まともに寝られるはずもなかった。
僕はバカヤロウだ。
最低の男、いや、最低の人間だ。
幸せを装った彼女に、何故気がついてやれなかった?
そして何故逃げた?
答えろ……。
「答えろよ、小谷鷹!」
僕は自分に罵声を浴びせ、苦しさに呻きながら蓑虫のように布団に丸まり、なんとか一晩の時間を経過させる。
そのうち、何となく朝がきた。
目覚ましのスイッチを鳴り出す前に切り、泣き腫らしたかのような赤みを帯びた目に目薬を滴下し、僕は起き上がった。
「会社……行きたくないな」
と心を虚無に襲われながら、しかし身体は自動的に出社の準備を進めてしまう。
「……行きたくないって言ってんだよ」
自分の身体よ、理解してくれ。
願いながら、僕は呟いた。
……しかし、
「どうして……」
気がつけば僕は会社のバスに自分から乗り込んでいた。
時間が来れば、まるで擦り込みをされたかのように身体が勝手に動き、僕は会社に向かってしまうんだ。
一日数千円ぽっちの「金」を手に入れるために、僕は洗脳されているらしい。
自分の事すらわからない程に、奴隷化は進んでしまったのだろうか?
そんな事を考えながら、立ち乗りのバスに揺られていると無意識に頬を涙が伝った。
おかしいなぁ、昨晩は一滴も流れなかった、僕の涙が。
……ごめんな、サトミ。
懺悔した。