ボーダー・ライン
そして係長は、課長が中々言い出せなかったその説明をいとも簡単に、さらりと言ってのけたのだ。
「えー、皆さん、勘のいい方はもう気付いておられるかもしれませんが、本日早朝、派遣社員の渡辺君が、病気にて逝去されました」
え……まさか?
僕は耳を疑う。
まさか、嘘だろう?
しかし二度も同じことを説明してくれる程優しくはない、
「渡辺君はここ1ヶ月、体調不良のため自宅療養を余儀なくされていましたが……残念です」
と有野係長は非常に演技ぶった一言で、僕たちへの「説明義務」を果たしたのだった。
残念です。
嘘だろ?
しかも、ああ、そんな一言で済ませてしまうのですか?
その派遣社員、渡辺さんはもう3年近くここで働いていた、言わば派遣社員達の兄貴分にあたる人である。
気の毒なことに、1ヶ月前くらいから不眠症からの体調不良を訴え、診断書を提出し、会社を休んでいた。
だけど噂で、病状は「回復」の方向に向かっていると聞いていたのに。
僕自身、ここでの仕事を教えてもらったのは正社員からではなく、その渡辺さん本人からであった。
だからこそ、
「そんな……どうして」
気がつけば、朝礼中だというのに呟いていた。
さらに周囲を見回せば、同じ派遣社員の皆は一様に眉間に皺を寄せ、悲しんでいるのだろうか、苦しんでいるのだろうか、何とも言えない表情で立ち尽くす。
古株の渡辺さんは僕だけでなく、ここの皆の先輩的存在であったのだ。
それだけ彼は皆に愛されていた、大切な人であった。
……なのに。
「どうして……」