ボーダー・ライン

……虚しい。

こういうときはいつも、現実の自分は夢見ていた未来とはまるで別の世界に来てしまった、と空虚な気持ちに侵される。
地獄に一人でほうり出されるような、熱くて痛い、この感じ。

だけど、だからこそ一層、ネットの中でだけででも僕というちっぽけな存在に愛を与えてくれるサトミという女の子を愛おしく感じるのかもしれない。

針の山に咲く、一輪の花みたいに、ね。


だから、いつもいつも、

『ありがとう』

僕は最後にその一言を付け加え、サトミにメールを送信する。

「ありがとう」は僕の知っている、数少ない「気持ちを与える」言葉だ。

語彙もなく、不器用な僕にはそうやって気持ちを表現するほかない。


すると一分もたたないうちに、彼女からの返事が返ってきた。

『From サトミ
 題  続きは
 本文
 チャット部屋でやろ★』

なので僕とサトミはその後、ネット上の個室おしゃべり部屋「チャットルーム」で、二人きりの世界を楽しむことにした。



こういう状況って、実は彼女がいるって言えるのかな?
僕は彼女イナイ歴イコール年齢を自負しているが、実は会社の同僚にそれとなく聞いたことがある。

「ネット上には交際してる女、いることにはいるんだけど」

そうしたら彼は、
「そんなん、彼女じゃないっしょー。女と付き合うってのは実際会って告白してなんぼだし、お前も男ならわかるよなぁ? 俺のいいたいこと」
と下品にげらげら笑った。

それを聞くと、一気に僕の気持ちは萎えてしまった。

ええ、僕だって男です。
だから言いたいことはわかります、わかりますとも。


でも、

「お前のしてるコトは、ただの恋愛ゴッコだよ。まだまだガキだねぇ」

と下卑たことを軽々しく言い放てる同僚の図太い神経や男らしさは、あいにく僕には必要ない。

だって彼女、サトミは初めて僕に出会った日、こう言ったんだから。

『ジュンスイな人って憧れる』

< 7 / 34 >

この作品をシェア

pagetop