夜人【ヨルヒト】さん
液体の表面が白く泡立つ。

それが生物の動きに見え、トキコは座ったまま後ずさった。

ドアにすがるようにして立ち上がる。膝が震えた。

横たわった缶からコーラが溢れる。

その飲み口が、カリカリと音を立てた。

一本だけ這い出した指が、カーペットを掻いている。

機械的な動きが、余計に恐怖を煽った。

「キャアアア!」

トキコは叫んだ。缶から視線を外すことができない。

叫びながら、トキコはベッドへ走った。

布団を外し、缶の上に投げる。

広がった布団に覆われ、缶が見えなくなる。

枕も、毛布も投げつけた。
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