夜人【ヨルヒト】さん
「そう、僕は」

夜人の声が途切れると同時に、チサエは側頭部に衝撃を感じた。

へりに掴まっていた手が離れ、水に身体が投げ出される。

死の恐怖が蘇る。

もがき、へりに手をかける。

顔を上げると同時に、鈍い痛みが手を襲った。

「ぎゃっ!」

夜人の足が、チサエの指を踏みつけていた。

ぎりぎりと締め付ける力が、折れるのではないかと思うほどに指を圧迫する。

「ああ~ッ!」

叫び、指を抜こうとするが、動かない。

夜人の足首を掴むと、反対の足がチサエの額を蹴った。

のけぞり、チサエはまた水面下へと沈んだ。
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