夜人【ヨルヒト】さん
だが、他に行き場もない。

戸に手をかけ、そっと引く。

「……チサエ?」

薄暗い教室に人の気配はなかった。

窓に引かれたカーテンの隙間から差し込むぼんやりとした光が、テーブルや棚を浮かび上がらせている。

蛇口から垂れた水が、ぴたんと小さく鳴った。

「……チサエ? いるの?」

顔を出して呼びかけるが、返答はない。

ぎゅっと唇を結び、サナミは理科室に入った。

足音が、妙に大きく聞こえる。
< 68 / 199 >

この作品をシェア

pagetop