二人の『彼』
序章
「ん……」
ゆっくりと意識が浮上するのに合わせて、頬に当たる冷たい風を感じる。
目を開けた時の、この時代錯誤のような違和感にも、もういい加減慣れてきた。
いや。
比喩する必要はないのか。
俺は身を持って、時代錯誤に陥っているのだから。
要はタイムスリップである。
少し前、いきなりこの世界にやってきた。
突飛な出来事すぎていまだに頭が追いついていかないところも多いけれど──唯一、救いだったのは、大学の先輩も同じくタイムスリップしてきたということだった。
タイムスリップした要因がどちらにあるのかは分からないけれど──或いはどちらにもあるのかもしれない──巻き込んでしまったようで先輩には申し訳ないと思う。
今はなんとか、ある親切な人の仲介で、生きていくための資金を稼ぐために、先輩とここ"四季"という食事処で働かせてもらっている。
話した事情を全て信じてもらえたわけでもないだろうが、寝泊まりする部屋まで提供してもらっているお陰で、しばらくはなんとかなりそうではある。
……しばらくも何も、居座るつもりは全くないのだが。
何せタイムスリップした先──つまりこの世界は、幕末。
帯刀した侍たちが闊歩する、この時代の人々から見れば未来人である俺たちにとっては、非常に物騒なご時世だからである。
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