二人の『彼』
「……お前」
「っ……?!」
四季に帰る途中、ちょうど橋の欄干の真ん中辺りを通りすぎようとした時。
すれ違った一人の男が、いきなり声をかけてきた。
振り返ると、声をかけてきたと思われる目の前の人物は、俺に向けて鋭い眼光を放ってくる。
怯んではいけないとは思いつつも、狐につままれた鼠のように、目を逸らせないままいすくめられた。
その人は威圧的なのにどこか妖艶で、恐々思いながらも目を奪われた。
現代語で言うなら間違いなくイケメンの部類に入るのだろうが、イケメンはイケメンでも、かっこいいより美しいという表現の方が相応しい気がする。
まあ、そんな整った顔立ちも、この威圧的なオーラというか、不機嫌極まりない雰囲気というか……そういった爽やかさとは無縁のものが台無しにしていることは明白である。
「……なんすか」
負けじと精一杯睨んでやった。
すると俺から視線を外し(やった、勝った!)、
「……いや」
と、低く呟いたのを、辛うじて聞き取った。
そしてすぐに去っていこうとするので、俺は一体何なんだと呼び止めたかった──が、あまりにあっさり退いていったことに呆気にとられたことと、本能的にもう目を合わせたくないという思いが、俺を阻んだ。
「…………」
まあいいか、と俺もその場を後にしようとしたその時、目の前を子猫が横切る。
そのまま目で追っていると、寄り添うようにさっきの男についていくものだから、目を疑った。
……超なついてる。
しかしそれに対して当の本人はというと、猫どころか脇目もくれず平然と歩いて行くのだった。
……動物的勘が狂っているのは、果たして猫か、それとも俺なのか。
というか。
そもそも、あの男、誰だったんだろう……。