二人の『彼』
「……というわけだから。ごめん、先輩」
「そっか……新撰組に」
先輩は新撰組の仕事内容を知っているのか知らないのか、時折顔を歪めるほどに心配を露にしていたけど、最終的には承諾してくれた。
俺は大丈夫だから、と。
自分に言い聞かせるように、全く根拠のない言葉を先輩に突きつけて。
そうするしかない。
後付けの理屈は、不安を煽るだけだから。
「俺……新撰組の方にお世話になるから、ここには当分戻って来られないけど、時々顔出すよ」
先輩に会いに──ね。
生存確認のために、なんて虚しい理由は口にしたくない。
こうして生きている人もたくさんいるんだ、生きていることは当たり前と考えていいはず。
「篠宮くん」
しかし先輩はそれを悟ったのか、おもむろに口を開く。
「危ないことは、しないでね」
「うん」
これは、嘘だ。
剣の腕を買って誘ったやつに、危険でない仕事をさせるわけがない。
買いかぶりも甚だしいのだけれど。
「じゃあ、先輩。ここのことはよろしく。
先輩も、色々気をつけてよ」
「うん」
嘘を紛らわすかのように被せて言う。
先輩は同じ言葉で頷いたが、それは嘘でないことを信じたい。
嘘をついたくせに信じようとするなんて我ながら自分勝手だと思ったけれど、今の段階でどう答えるのがベストかなんて、わからない。
自分の心に蓋をして、笑ってはぐらかす。
俺はそんな現実逃避の仕方しか知らない。
でもそれで先輩が笑ってくれるなら、と。
崩れていく仮初めの平穏に背を向けて、新撰組での生活に身を投じることになったのだった。