二人の『彼』
……しかし見回りのない日や新撰組の得意分野である敵方の討伐──討ち入りというらしい──のない日は、ああして一日中文机に向かっているのだと思うと、土方さんが心配にもなってくる。
いや別に、この時代へ来て間もない俺がそれを心配する必要も、新撰組(かれら)がどこの馬の骨とも知れぬ輩に心配されるいわれもないのだが。
そもそも今までそうやって来たのだから、今更部外者に口を挟まれたくもないだろう。
だけど。
気にならないと言えば嘘になる──先輩のようなお人好しとまではいかないが。
というわけで。
「土方さん、お茶持ってきました」
とりあえずお茶を入れ、土方さんの部屋に這入る。
が。
そこはもぬけの殻だった。
どこにいったのか、散乱した書類はそのままに、風が吹き抜けているだけの部屋。
こうして見ると、わりと広い部屋だ──
「……あ」
部屋の中を一通りぐるりと見回した俺は、机の上の眼鏡に目がいった。
土方さんのかけていた眼鏡だ。
この時代に眼鏡があるとは、知らなかった。
それも、形状は現代のそれと限りなく近い。
手に取ってみる。
土方さんによく似合う、黒渕の眼鏡。
でも普段はかけていないから、そんなに度も強くないのではないだろうか。
ていうかそもそも、度とか入ってるんだろうか。
と思い、眼鏡をかけてみた。
……考えたら俺、眼鏡とか滅多にかけないからよくわかんないじゃん。
部屋に這入って来たときと同様に、ぐるりと部屋を見回す。
……普通に見えるな。
と。
「何してんだ、恭」
なんて声がしたと思ったら。
土方さんが襖を開けて立っていた。
……呆れ顔で。